一般社団法人 不動産ビジネス専門家協会

明日の不動産ビジネスを切り拓く 不動産ビジネス専門家協会

(鼎談)生兵法は怪我のもと!?賢く使おう専門家

~施行まで1年を切った民法改正を語る~

植松勉(弁護士/日比谷T&Y法律事務所) 

山田幸平(税理士・公認会計士/LR会計・シンシア監査法人) 

難波誠(司法書士/司法書士法人F&Partners)

 

(2019年5月発行/PREB Report Spring & Summer 2019より転載)

(司会)本日はお集まりいただきましてありがとうございます。まず、当協会に入会した動機、きっかけを教えてください。

(植松)これまで以上に、不動産関係の案件に注力しようと考えたことによります。

 

(難波)代表理事の中沢さんとは古くからの付き合いでして。不動産会社勤務時代の先輩後輩の間柄です。私が司法書士になったのをきっかけに、ほぼ自動入会となっておりました。もちろん、「士業×不動産実務家」というコンセプトに共感したから、というきちんとした理由もあります。

 

(山田)知り合いが多数入会されていたので、「まあいいかな」という軽い気持ちで入りました。「知り合いが多数入会している」ということは即ち「信頼できる団体」であるということですし、難波さんと同様コンセプトに共感したから、ということもあります。

 

(司会)ご自身の仕事・業務内容(特に不動産と関わりのあるところについて)お聞かせください。

(植松)企業の案件が多いですが、最近は、相続がらみの不動産案件も増えてきています。弁護士1年目から固定資産税訴訟を担当するなど、不動産案件は幅広く扱っています。他にも、不動産取引の契約書の作成・チェックや、建物明渡、賃料増額等も経験したことがあります。

 

(難波)司法書士ですので不動産の決済、また今までの経験を活かして宅建や不動産実務の講師をしております。企業の新入社員研修もよく担当しています。相続案件にはがっつり関わっていますね。

 

(山田)①M&Aや事業再生の場面で不動産の評価や処分に関する検討を行うことがあります。②相続税の試算を行う際に不動産評価が主要論点になります。③不動産投資会社の税務顧問をしております。不動産鑑定士さんとコラボすることが多いですね。最近ではインバウンドでホテルの買収に関わったりすることもあります。

 

(司会)当協会に入会して良かったと思えること、メリットとして感じていることはありますか?

(植松)よかったと思えることは、不動産実務家や他士業の方々と知り合うことができ、人脈が広がったことでしょうか。酒飲み仲間も増えました。以前より肝臓のケアが大変になりましたが・・・。

 

(難波)やはり、人のつながりですね。

 

(山田)まず、不動産のことで相談したい時に相談相手がすぐに見つかることです。そして、不動産に関する有益な情報を得られる環境を提供いただけていることです。

(司会)率直に、今回の民法改正についての感想を教えてください。

(植松)時代の変化に応じて法律が改正されていくのは当然ですが、勉強は大変です。それに、法改正は頻繁に行われているので、慣れた、という側面もありますね。大改正といえば以前会社法もそうでしたし。

 

(難波)そうですね、私もそう思います。今回の民法改正は大部分が判例の後追いとはいえ、契約不適合責任については、運用次第で影響が出る可能性がありますね。

 

(山田)既に法律の専門家が関与しているお客様についてはそれほど心配していませんが、税務顧問しか置いてないお客様については「大丈夫かな?」という不安はあります。ただ、お客様はまだ民法改正の影響を意識されていないので、業務への影響が出るのはまだ先なのかなーと。

 

(司会)今回の改正民法について、注目している点、またはご自身のお仕事と関係が深いと思われる部分について教えてください。

(植松)個人的には、受験時代から売買契約における瑕疵担保責任に係る法定責任説には違和感を覚えていたので、今回の(債権法の)改正では、すっきり整理されたとの印象を持っています。自分の仕事との関係では、保証、法定利率、定型約款、売買、賃貸借、請負…債権法は契約の基本法ですから、どれも関係が深いと思います。もちろん、相続法も。

 

(難波)着金確認を司法書士がしない限り、決済は終わらない運用がなされるかもしれませんね。改正477条の文言からすると、弁済の効果は着金して初めて生ずることとなりますので。

 

(山田)まず、「配偶者居住権」及び「特別の寄与制度」の新設により遺産分割における考慮要素の増加が考えられます。これにより遺産分割のシミュレーションがさらに複雑になることを予想しております。次に、事業再生においては債権譲渡禁止特約の効力に関する改正点や、将来債権の譲渡が認められることによる、再生会社の資金調達の選択肢が拡がるというメリットがあるものと認識しております。そして、個人保証に関する民法改正により、保証人の保護はされやすくなる一方で中小企業が資金調達する際のハードルが上がるというマイナス面もあるものと予想しております。

 

(難波)今回は基礎的なルールが設定し直されたということなので、この改正だけでどうこうというのではなく、やはり実務との折り合いの部分というのは、運用の積み重ねや通達によって作られていくのかなと思います。

 

(山田)それにしても、現実社会の問題に法律が手を伸ばしたということそれ自体はすごいことだと思います。

 

(司会)実際にご自身のお客様から改正民法について質問された、または影響がありそうだから説明した、といったことはありましたか?

 

(植松)中小企業の社長から保証について質問されました。そのほか、最近では、瑕疵担保責任や危険負担などがクライアントさんとの話題にのぼりました。また、私は、不定期ながら、クライアントさんに対して、債権法改正を項目ごとに分けて簡単に解説したメールを送付しています。そのメールをきっかけに質問をいただくこともあります。そういう意味では、改正について、基本的には網羅的に説明している最中です。

 

(難波)残念ながらないですね。これだけ宣伝されていても、実務でどうなるかが見えてこないので、特に不動産仲介では知らない方がほとんどかもしれません。ただ、不動産の譲渡に関する契約書は内容や文言が変わるはずなので、きちんと説明していくことが必要だと思います。

 

(山田)お客様から質問されたことは無いですが、相続税の相談を受けた際に「配偶者居住権」及び「特別の寄与制度」の新設については触れたことがあります。ただ、お客様の反応はフーンって感じでした。私のお客様にはベンチャー経営者の方が多いので、相続がリアルじゃないのですよね。ただ、経営者の方には、顧問弁護士を付けてほしいと思いますし、機会があるときにはそうお伝えしています。

 

(植松)そのご活動、これからもよろしくお願いします(笑)。 

 

(司会)改正民法について、不動産ビジネスをなさる方に、「ここは特に重要だ!」とお伝えしたいことはありますか?できれば、「このような場面で影響がある」という例を挙げながらお話しください。

(植松)影響は多岐にわたるので、ここでは語り切れません。

あえて絞って例を挙げると、まず、不動産売買の場面では、売主の担保責任に関する改正が重要です。この改正では、「瑕疵」という用語の使用をやめたのみならず、契約の内容に適合しない場合の担保責任(以下「契約不適合責任」)として、要件・効果の見直しも行っています(改正法第562条~564条)。改正法施行後に、これまでの「瑕疵担保責任」との用語を使用した売買契約書をうっかり使ったりすると、改正法のもとでもこれまでの瑕疵担保責任の制度を適用する趣旨か、それとも「瑕疵担保責任」との記載は改正法の定める契約不適合責任を指すものとして扱うべきか、無用な争点を生み出すことにもなりかねません。(末尾コラム1参照

 また、不動産賃貸借の場面では、保証に関する改正が重要です。賃貸借契約書に個人の保証人との根保証条項を盛り込む場合には、「極度額」を記載することが求められます(改正法第465条の2第2項)。事業用賃貸借では、賃借人(主たる債務者)が個人に保証を委託する場合に、当該個人に対して自己(賃借人)の財産状況などの情報提供を行ったかどうかが、賃貸借契約の効力に影響を与えることもあり得ることとなります(改正法第465条の10第2項・3項)。(末尾コラム2参照)

 これらのほかにも、もろもろの影響が考えられます。専門家との打合せは必須でしょう。

 

(難波)売買契約書条文において、契約の目的をどのように定めるか、ですね。これによって契約不適合責任の運用が変わる可能性があります。

 

山田)相続に絡む方については、従来よりも考慮すべき要素が増加してきたので、従前の知識のみで判断するのではなく、法律専門家の見解を早めに確認することをお勧めしたいです。相続というと、知人から聞いたことや巷の話くらいで想像してしまって、実際に弁護士さんが出てくると引いてしまうケースがまだ結構あるようなんですよね。やはりきちんとした遺言書を弁護士さんが作って、その場に税理士が同席する、というのが一番いいと思うのですが。

 

(植松)(大きくうなずく) 

 

(司会)法律の専門家として、法改正についてどのような心構えや対策をなさっていますか?

(植松)うーん、なかなか追いつくのが大変だというのが実感です。対策として、改正の審議の当初から議論をフォローして改正状況を把握しておくこともあれば、改正後に解説本で要点を斜め読みしてとりあえず済ませることもあります。勉強会に顔を出すこともありますね。いずれにせよ、実際の案件を処理するに際しては、これまで以上に、法律の条文にあたることを心がけています。

 

(難波)あてはめの正確さとバランス感覚をしっかり持つことです。

 

(山田)知識を得るのは当然のことですが、その先の影響については一人で考えていても限界があるので、他の専門家の方と議論することで「見落とし」を少なくすることを意識しております。

 

(植松)改正部分の文言をなぞるだけでなく、自分の言葉で説明できるようになって初めて、専門家として必要な知識を持てたと言えるのではと考えています。

 

(司会)士業と不動産実務家との連携、コラボレーションの必要性、重要性について、お考えになっていることがあればお話しください。

(植松)不動産取引を効率的に実行するためには、士業と不動産実務家との連携は欠かせないと考えます。絶対に必要な連携でしょう。

 

(難波)コラボするには、お互いに何を欲しているかを共有することが大事かと。それぞれの業界の要望・求めていることが、他の業界に共有されておらず、マッチングにおいてもったいない状況がまだまだあると考えています。

 

(山田)まず、大きな絵を描くのは不動産実務家の方だと思います。士業はその後のポイントを埋めていくことになります。完璧に絵を描いてしまって、修正の隙が無いとなると士業がアドバイスしても「時すでに遅し」となってしまいますので、ある程度、絵を描いた段階で士業にお声掛けいただけると良いと感じます。

 

(司会)当協会の登録専門家どうしのコラボ事例を教えてください。

(植松)登録して間もないので、まだありません。

 

(難波)山田先生を一方的に使い倒してます。

 

(山田)  (笑)。M&A業務において、司法書士の塩足先生とご一緒したことがあります。不動産登記簿の読み方は税理士にとっては不得手なもので、塩足先生にご確認いただいたことで円滑に業務が進みました。

 

(司会)当協会に期待していることを率直にお聞かせください。

(植松)一番は、人脈を広げること、それも他の業界の方々と知り合うこと、そのための「場」として期待しています。もちろん、不動産関係の知識の充実を図ることも期待したいですね。

 

(難波)PREBを使うと、もっとそれぞれのお客様の満足度向上につながる、ということを示していけたらいいのではと思っています。

 

(山田)現在でも十分に満足しております。今後もPREBが末永く続くことを期待しております。

 

(司会)今後のご自身の活動展開について(特に不動産および当協会とのかかわりに関して)、差支えのない範囲で教えてください。

(植松)冒頭でも触れましたが、これまで以上に、不動産関係の案件に注力していきたいです。また、相続・事業承継も重要な分野だと思っています。ここにも不動産は多くの場面で関わってきますね。私がこれまで力を入れてきた会社法や一般社団財団法人法なども、事業承継の場面で重要な働きをすることがあるので、これらの法律も駆使しながら、今後の活動を展開していきたいと思います。

 

(山田)3月にシンシア監査法人を設立しました。監査法人というと、敷居が高すぎるイメージがあったと思います。ですが、上場を目指すなら早めに準備を始めるのが絶対いいです。ベンチャー経営者の皆様、不動産ファンドの会計監査等に対応いたしますので、ぜひお声掛けくださいませ!!!

コラム1「瑕疵担保責任から契約不適合責任への変更」

 現行法では、売買の目的物に隠れた瑕疵があったとき、買主は、売主に対して損害賠償請求や契約の解除ができる、としています(民法第570条、第566条)。

 「隠れた瑕疵」とは、買主が取引上一般に要求される注意をしても発見することができない瑕疵(キズ、不具合等)をいい、物理的な瑕疵のみならず、法律的な瑕疵も含むものとされています。

 今回の改正では、「瑕疵」という言葉を「種類又は品質に関して契約の内容に適合しない」に変更するとともに、買主が取り得る手段として(1)履行の追完の請求、(2)代金の減額の請求、(3)損害賠償の請求、(4)契約の解除、の4つを用意しています。

 現行法が損害賠償と契約解除しか定めていなかったのに対して、履行の追完(目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡し)と代金減額も請求することができるという点が明記されました。

コラム2「保証制度の変更」

 極度額につき定めのないいわゆる「包括根保証」は、保証人が過大な責任を負う可能性のあることや、経営者の新たな事業展開や再起を阻害するとの指摘があり、平成16年の民法改正により規律が設けられました。

 平成16年改正では、主たる債務の範囲に融資に関する債務が含まれている個人との貸金等根保証契約で極度額の定めのないもののみが禁止の対象となっていましたが、今回の改正ではこれだけでなく、個人の包括根保証全般に対象を拡大することとしています。

 この結果、建物賃貸借契約において、個人が賃料等の債務を連帯保証するケースにも影響が生じることになります(法人が保証人となる場合には影響はありません)。

 具体的には、個人との(連帯)根保証契約において「極度額」(保証人が保証する金額の上限)を定めないと、当該根保証契約が無効となることに注意が必要です。

 賃貸人側からすると、保証金額の上限を幾らで定めるかというのは非常に悩ましいところです。

 過大な極度額の定めは公序良俗違反(民法第90条)で無効とされる危険もありますので、敷金の金額、原状回復に要する費用、明渡し完了までに要する時間等を勘案しつつ、賃貸人の損害をカバーできる水準で極度額を定めることになります。